新卒社員が3年以内に会社を辞める「早期離職」が、今や日本企業にとって避けて通れない課題となっています。特に厚生労働省の調査によれば、大卒新卒者の離職率は年々一定の水準を保ち、入社後のギャップや仕事への不安、キャリアの展望が描けないことがその背景にあるとされています。
企業にとっては、採用にかけた時間やコストの損失だけでなく、社内の士気や人材育成にも影響を及ぼします。一方、早期に辞めた側の若手社員も、転職先での再適応やキャリアの不安定さというリスクを抱えることになります。
この記事では、なぜ新卒の早期離職が起こるのかを明らかにし、離職理由をデータや事例を交えて解説します。その上で、企業や人事担当者が取るべき対策や採用段階からの工夫について詳しく見ていきます。採用活動から職場定着に至るまでの戦略を見直し、若手社員の離職を防ぐためのヒントをお届けします。
早期離職の現状と新卒離職率の実態
日本では新卒社員の早期離職率が依然として高い水準にあります。厚生労働省が2020年に報告したデータによると、2019年における入社3年以内の離職者は約3割です。 大学卒の離職率が32.8%、短大卒は43.0%、高校卒は39.5%、中学校卒は59.8%となっています。これは業種や企業規模に関わらず広く見られる傾向であり、社会全体としても大きな課題と認識されています。
企業にとって、この早期離職の問題は深刻です。せっかく時間と費用をかけて採用・教育した若手人材がすぐに離れてしまうことで、業務の継続性や組織の活力が低下します。また、同僚のモチベーションにも悪影響を及ぼすこともあり、全体の職場の生産性や人間関係の質にも関係してくるのです。
離職の主な理由には、「入社後に感じる業務内容とのギャップ」「十分なサポート体制がない」「キャリアビジョンが描けない」などがあり、これは単なる個人の問題ではなく、会社側の制度設計や情報提供の仕方に起因する場合も多いのです。
企業は今、早期離職の実態を正確に把握し、その影響の大きさに真剣に向き合うことが求められています。
厚生労働省の調査から見る早期離職の傾向と背景
厚生労働省が発表した令和の最新調査では、新卒社員の1年以内離職率も無視できない水準にあることが報告されています。特にサービス業や小規模事業者でその傾向が顕著であり、職場環境や教育制度の充実度が離職に強く影響していることが分かります。
以下は早期離職の主な背景です
- 仕事内容が想像と違った(ギャップ)
- 上司・同僚との人間関係に悩んだ
- 成長機会やキャリア支援が少ない
- 長時間労働や労働条件への不満
このような問題の多くは、入社前の情報提供の不足や誤解に起因しています。つまり、「採用段階でいかに現場の実態を正確に伝えるか」が、定着率向上のカギとなるのです。
加えて、学生から社会人への移行に対する支援不足も課題の一つです。大学と企業の間で生じる期待値の差を埋めるためのキャリア教育や内定後フォローの強化が今後ますます重要になるでしょう。

入社後のギャップが離職を招く原因とは
多くの新卒社員が入社前に抱いていた期待と実際の職場環境や業務内容との間に大きなギャップを感じて、早期離職を選んでしまうケースが増えています。この「リアリティ・ショック」とも呼ばれる現象は、近年の離職理由として顕著です。
たとえば、「裁量がある仕事にチャレンジできる」と聞いて入社したのに、実際はルーティンワーク中心で成長実感が得られない、「人間関係の良さが魅力」と聞いていたのに、孤立感を感じたというケースがあります。これは採用活動での情報提供の偏りや誤認が招く典型的な例です。
このようなギャップは以下のような要因によって生じます
- 業務内容が具体的に伝わっていない
- 社内の雰囲気や人間関係が表面的にしか伝わっていない
- 配属後の支援体制やキャリアパスの提示が不十分
- 教育制度の中身が曖昧
企業と人事担当者は、「何を伝え、何をあえて伝えないか」というバランスを見直し、透明性の高い採用情報を提供する必要があります。現場との連携を強化し、リアルな働き方や一日のスケジュールを示すことで、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
新卒社員が直面するリアルな「現場の声」とは
実際に新卒で入社し、短期間で転職を決めた若手社員からは以下のようなリアルな声が聞かれます:
- 「想像していたよりも残業が多く、心身ともに限界を感じた」
- 「配属された部署に業務のマニュアルがなく、聞ける人もいなかった」
- 「研修後すぐに1人で案件を任されて、不安しかなかった」
- 「評価基準が曖昧で、何を頑張ればよいか分からなかった」
これらの声から浮かび上がるのは、サポート体制の不足と期待値のズレです。特に「教育制度や制度設計が整っていない」という課題は、中小企業やベンチャー企業で多く見受けられます。
一方で、職場の雰囲気やメンター制度の充実により、「安心して質問できる環境」や「目標を明確に持てる支援体制」がある企業では、定着率が格段に高まる傾向があります。
つまり、現場の声を拾い上げ、制度や仕組みに反映することが、早期離職を防ぐための重要な鍵になるのです。
新卒の離職理由別に見る傾向と特徴
新卒社員が早期離職に至る理由は一様ではなく、背景にはさまざまな個人的・組織的要因が複雑に絡み合っています。離職理由を分類・分析することで、企業が取るべき対策や改善施策がより明確になります。
以下に代表的な新卒の離職理由を分類して紹介します
- 職務内容とのミスマッチ
入社前に想像していた業務と、実際の仕事に大きな違いがある場合です。特に「もっとクリエイティブな仕事だと思っていた」という期待との乖離が見られます。 - 人間関係・職場環境の問題
上司や先輩との関係が築けない、相談できる雰囲気がないなど、心理的安全性の欠如が原因となるケースです。 - 労働条件・待遇に対する不満
残業時間や給与、福利厚生の内容などに対する不満。特に、他社との比較やSNSの影響で不満が増幅する傾向もあります。 - 将来のキャリアが見えない
「この会社で何年後にどうなれるのか」が見えないと、不安から転職活動を早期に開始する人も少なくありません。 - 育成・教育制度の不足
OJTだけに頼りきりで、体系だった教育プログラムがないと、成長実感が得られずに離職に至ることがあります。
離職理由を分類してわかる改善ポイント
これらの離職理由を見てわかるのは、多くの課題が採用から入社後のサポートまで一貫した仕組みで解決できる可能性があるということです。
具体的な改善ポイントは以下の通りです
- 採用段階でリアルな情報提供を徹底する
実際の業務内容や1日のスケジュール、職場の雰囲気などを動画や社員インタビューで発信する。 - 配属後のフォローアップ制度を強化する
メンター制度の導入や1on1面談の定期化により、不安や疑問を早期に解消する。 - キャリアパスを可視化する
ロールモデルや成長ステップを提示し、若手社員が自分の将来像を描けるようにする。 - 人間関係を重視した組織づくり
上司や先輩が相談しやすい存在であるための研修や、コミュニケーションの文化醸成が重要です。 - 労働環境や制度の見直し
柔軟な働き方の導入や、有給取得のしやすさなど、働きやすさを実感できる環境整備が必要です。
企業がこれらの離職理由を正しく把握し、対策を講じることで、若手人材の定着率は確実に改善できます。それは結果として、組織全体の成長にも大きく貢献するのです。

人事と企業が取るべき定着率向上の対策
新卒社員の早期離職を防ぐには、入社後の定着支援を人事と現場が一体となって強化することが不可欠です。ただ単に制度を整えるだけでなく、「心のつながり」や「働く意義」を感じさせる取り組みが求められています。
では、どのような対策が実際に効果を上げているのでしょうか。以下に代表的な施策を紹介します
- オンボーディングプログラムの体系化
入社初日から数ヶ月にわたって行う教育・支援のプロセス。単なる研修ではなく、段階的に職場に慣れる仕組みが必要です。 - メンター制度・バディ制度の導入
年齢やキャリアの近い先輩が相談役となることで、心理的安全性が高まり、孤独や不安を感じにくくなります。 - 1on1ミーティングの定期実施
上司と部下が定期的に対話することで、悩みの早期発見とキャリア支援が可能になります。 - 成長実感を得られる評価・フィードバック制度
努力や成果が適切に認められる仕組みは、自己効力感の向上につながります。 - チーム内コミュニケーション活性化施策
雑談の場やチームビルディング活動など、日常の中でのつながり強化も忘れてはなりません。
若手社員の心をつかむ職場施策の具体例
成功している企業の例として、あるIT企業では「新人専用の月次フォロー制度」を実施。1ヶ月ごとに振り返り面談を行い、悩みの共有やキャリア目標の確認を行うことで、入社1年目の離職率が大きく低下しました。
また、ある製造業では、「新卒向けプロジェクト制度」を設け、入社3ヶ月以内に小さなプロジェクトを任せる制度を導入。これにより、社員は早期から自己の役割を明確に実感でき、定着率が前年比で15%向上しています。
その他にも、
- 社内SNSを活用したフラットな情報共有
- 部署を超えたシャッフルランチの導入
- 入社半年後の逆フィードバック制度(上司評価)
など、社員の声を基に制度を設計・改善する企業が増えています。
こうした取り組みには共通して、「現場の声を聞く」「一人ひとりに寄り添う」「柔軟に制度を改善する」という視点があります。人事部門と現場リーダーが密に連携し、若手社員の定着を組織の戦略課題と捉えることが、真の定着対策に繋がるのです。
採用活動から始まる離職防止戦略とは
早期離職の防止は、入社後の支援だけでなく、採用活動そのものの質に大きく左右されます。つまり、「採用=定着へのスタートライン」であるという認識が企業には必要です。
多くの企業では、魅力を最大限に伝えることに力を入れすぎて、ネガティブ情報や現実的な課題を伝えないまま入社を迎えることがあります。これにより、入社後のギャップが大きくなり、早期の離職につながるのです。
企業が取るべき戦略は、誠実でリアルな情報発信と、入社前からのフォロー体制の構築です。これは採用マーケティングの観点でも極めて重要であり、候補者との信頼関係づくりにも繋がります。
採用サイトの工夫と入社前フォローの重要性
採用サイトは企業の第一印象を決める「顔」とも言えます。離職防止の観点からは、単なるPRではなく、リアリティと誠実さのあるコンテンツづくりが求められます。
具体的な工夫としては以下のようなものが効果的です
- 1日の仕事の流れや実際の業務内容の紹介
- 若手社員のリアルな声を掲載(本音ベースのQ&Aなど)
- 「やりがい」と「大変な点」の両方をバランスよく伝える
- 配属後の教育制度・評価制度の詳細を開示
- よくある勘違い・ギャップの説明コンテンツ
また、内定後から入社までの期間においては、定期的なコミュニケーションをとることが重要です。たとえば
- 内定者向けオリエンテーションの開催
- 現場社員との座談会・オンライン交流会
- 業務に関連する簡単な事前学習プログラム
これらはすべて、「この会社に入ることが楽しみ」と思ってもらうための信頼づくりと期待値の調整につながります。
さらに最近では、採用サイトを通じたコンテンツマーケティングにも注目が集まっています。たとえば、自社の文化や価値観を語るブログや動画コンテンツを通じて、共感層に届く採用が実現できます。
採用から入社、そして定着までを一連の流れとして捉え、戦略的に設計すること。それが、若手人材の早期離職を防ぐための本質的なアプローチとなるのです。

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離職率を低下させるために今企業が考えるべきこと
新卒社員の早期離職は、企業にとって深刻な損失であり、同時に見直しのきっかけでもあります。ここまで解説してきた通り、離職の背景には「入社後のギャップ」「職場環境」「キャリア不安」「情報の不足」といった複合的な要因が存在します。
しかし、これらは決して防げない問題ではありません。むしろ、企業側が採用から定着までのプロセスを見直すことで、大きく改善することが可能です。
特に注目すべきポイントは以下の通りです
- 採用段階からのリアルで誠実な情報提供
- 入社前後のフォローアップ体制の強化
- メンター制度やキャリア支援などの定着施策の導入
- 現場の声を取り入れた制度の柔軟な改善
- 人事・経営・現場が一体となった取り組み
また、採用サイトの設計も離職防止の第一歩です。企業文化や職場のリアルな情報を伝えることで、入社後の期待値とのギャップを減らし、長期的なキャリア形成の土台を築くことができます。
最後に重要なのは、「辞めさせない」ではなく、「働き続けたいと思ってもらえる会社になること」です。社員一人ひとりのキャリアと向き合い、成長を支える姿勢こそが、これからの人材戦略の本質となります。

FAQs
- なぜ新卒社員は3年以内に早期離職してしまうのか?
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仕事への期待と現実のギャップや、キャリア支援制度の不足が原因として挙げられます。特に職場環境や人間関係、教育体制の未整備は大きな離職要因です。
- 入社後の定着率を高めるために企業が行うべき施策とは?
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オンボーディングプログラムの充実、メンター制度の導入、そして働きやすい職場環境の整備が効果的です。従業員一人ひとりへの関心と支援が重要です。
- 離職率が高い会社にはどんな特徴がありますか?
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業務量の過多、長時間労働、評価制度の不透明さが共通点です。特に大卒新卒者にとって、働く意味や将来性を見出せない環境では離職傾向が高まります。
- 採用活動で離職を防ぐために意識すべきポイントは?
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リアルな情報提供と価値観のマッチングがカギです。採用サイトを活用して職場の実態や社員の声を正直に伝えることが、入社後のギャップ防止につながります。
- 社会全体で早期離職問題にどう取り組むべきでしょうか?
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厚生労働省の調査や支援制度の活用、教育機関と企業の連携強化が必要です。キャリア教育の充実や若者の働き方に関する情報発信も今後の重要なテーマです。