手書きか、PCか、あるいはAIや代筆によって作成されたものか──。
履歴書が“誰の手によって書かれたか”が曖昧になりつつある現代。特に高校生の新卒採用においては、履歴書の形式と選考の評価軸のズレが、教育現場と企業現場の間で浮き彫りになってきています。私たちが実施した岐阜県企業へのアンケート結果からも、その現状と今後のヒントが見えてきました。
「手書き=人柄」はもはや前提ではない
「手書きの履歴書から、応募者の人柄や丁寧さが伝わる」──これは長年、企業の採用現場で信じられてきた考え方です。しかし、私たちが行った調査(対象:岐阜県内の企業28社)では、この価値観の変化がはっきりと表れました。
- 現在「履歴書は手書きで提出されている」と回答した企業:16社
- 「手書きでもPCでも両方受け入れている」企業:10社
つまり、手書きが依然主流である一方で、柔軟に対応する企業も増えているのです。
さらに注目すべきは、履歴書の作成方法が印象に影響するかという質問に対し
- 「手書きの方が好印象」と答えた企業:6社
- 「どちらでも印象は変わらない」と答えた企業:22社
という結果でした。企業の多くはすでに、「手書きかどうか」を重視しないフェーズに移行しつつあるのです。

書類の“正しさ”が揺らぐ時代
現在では、ChatGPTのようなAIツールや、プロの履歴書代筆サービスが広く使われ始めています。その結果、履歴書が本当に「本人の手で書かれたもの」なのか、選考時点では判別が困難なケースが増えてきました。
自由記述欄にも以下のような声が寄せられています
- 「今後の時代背景を考えると、パソコン作成が望ましい」
- 「AIやICT活用が進む中、デジタルリテラシーも評価項目になるべき」
これは、履歴書の見た目や形式ではなく、応募者のスキル・発想・実行力を評価すべきだという方向へ、企業の目線がシフトしている証拠です。
一方で、「字の綺麗さから性格や丁寧さが見える」とする企業も一定数存在し、価値観の“世代差”も浮かび上がってきます。
本当に重視されているのは「書類の裏側」
企業が履歴書以外に重視している情報は以下の通りです
- 成績証明書(9件)
- 健康診断書(3件)
- 欠席数(3件)
- 先生のコメントやクラブ活動の成果資料
- 「やる気が見えるか」「表情」など、対面での印象
これらの結果からも明らかなのは、書類単体よりも“人となり”を多角的に評価したいという企業の本音です。履歴書は、もはや人物評価の“補助資料”に過ぎないと言えるでしょう。

採用の本質を問い直す時が来た
手書きかPCかといった形式的な違いではなく、今、企業に求められるのは「本人の語り」と「実行力」を見極める選考設計です。AIや代筆によって整えられた履歴書に頼るのではなく、面接やワーク、体験共有によって“本物の人間性”を引き出す必要があります。
アンケート調査でも、以下のような提言がまとめられました
- 高校では、手書き・PC両方に対応できる履歴書作成指導が必要
- 将来を見据えた「デジタルスキル教育」を就職指導に組み込むべき
まとめ
「履歴書の形式」が評価基準になる時代は、確実に終わりを迎えています。
履歴書が手書きか、パソコンか、あるいはAIや代筆によるものか──その違い自体に“本質的な意味”がなくなってきているのが、今の採用現場の現実です。
これから企業に必要なのは、「これは本人が書いたか?」と疑う視点ではなく、
むしろ「この人と一緒に働く意味があるか?」を見出す視点へと発想を転換することです。
そのために企業が取り組むべきは、以下の3つです
① 履歴書は“入口”でしかないと認識する
履歴書は、もはや「選別ツール」ではなく「会話のきっかけ」であるべきです。
どれだけ整った内容でも、それが本人の言葉でない可能性がある時代には、
面接や実技、体験談の共有などを通じて、その人の背景・価値観・行動力を丁寧に引き出す設計が重要です。
② 「評価する側」から「引き出す側」へ
従来の選考は、「評価する(減点する)」視点で設計されてきました。
しかし今後は、応募者のポテンシャルを引き出す“仕掛け”を用意できるかどうかが、企業力そのものになります。
ワークショップ型の面接、エントリーシートへのフィードバック面談、職場見学+振り返りセッションなど、一人ひとりの個性と対話する採用設計がカギとなります。
③ “字”ではなく、“声”を聞く採用へ
文字の美しさや整い具合ではなく、
「その言葉をどう語るか」「どんな体験が裏にあるか」を聞く力こそ、これからの採用担当者に求められます。
応募書類を“信じる”のではなく、“広げる”。
その一歩を踏み出せる企業こそが、真に「人を活かす」組織へと進化できるのです。
最後に:AI時代の採用成功の鍵とは?
AIで整えられた履歴書に囲まれる未来は避けられません。
だからこそ、採用の質を高めるには「形式」ではなく「対話」に軸を置いた選考への転換が必要です。
“履歴書の見た目”ではなく、“その人が語る言葉の奥にある経験や価値観”に目を向ける。
この視点の転換こそが、AI時代においても人を見抜き、人を活かす企業であり続けるための、本質的な採用力と言えるでしょう。