こんにちは。今回は令和6年度(令和7年3月卒業)における岐阜県の新規高卒者就職状況を最新データに基づいて徹底解説します。高校生や保護者、進路指導の先生、そして企業の採用担当の方も、今の「就職市場のリアル」をお伝えします。
※本記事は岐阜県労働局が公表した「令和6年3月新規高等学校卒業者の就職状況(取りまとめ)」および関連統計資料(2025年3月卒業予定者対象)を基に作成しています。データは令和7年3月末現在の情報に基づいています。
求人倍率は過去最高水準!「完全な売り手市場」に
令和6年度の岐阜県の新規高卒者向け求人倍率は4.19倍。これは前年の4.11倍からさらに上昇し、過去最高水準を記録しました。
指標 | 令和5年度 | 令和6年度 | 増減 |
---|---|---|---|
求人数 | 11,919人 | 12,356人 | +437人 (+3.7%) |
求職者数 | 2,900人 | 2,952人 | +52人 (+1.8%) |
求人倍率 | 4.11倍 | 4.19倍 | +0.08pt |
内定率 | 99.8% | 99.9% | +0.1pt |
もはや就職希望者1人に対して企業が4社以上求人を出す状態。完全に学生優位の市場です。しかも、内定率はほぼ100%。就職を希望する高校生のほとんどが内定を得ている状況です。
注目すべき産業別トレンド ― 宿泊・飲食が大復活!
業種別に見ると、製造業(6,086人)が圧倒的に多く、全体の約半分を占めています。一方で注目すべきは、宿泊・飲食サービス業の大幅増。
業種求人数 | 令和6年度(R 7.3卒) | 令和5年度(R 6.3卒) | 増減幅 |
---|---|---|---|
製造業 | 6,086 件 | 5,963 件 | +123件 (+2.1 %) |
建設業 | 2,188 件 | 2,083 件 | +105件 (+5.0 %) |
卸売・小売業 | 1,006 件 | 1,003 件 | +3件 (+0.3 %) |
医療・福祉 | 912 件 | 964 件 | ▲52件 (▲5.4 %) |
宿泊・飲食サービス | 450 件 | 330 件 | +120件 (+36.4 %) |
業種就職者数 | 令和6年度(R7.3卒) | 令和5年度(R6.3卒) | 増減幅 |
---|---|---|---|
製造業 | 1,641 人 | 1,616 人 | +25 人 (1.5%) |
建設業 | 294 人 | 253人 | +41 人 (16.2%) |
卸売・小売業 | 257 人 | 260 人 | ▲3 人(▲ 1.2%) |
医療・福祉 | 141 人 | 117人 | +24 人 (20.5%) |
宿泊・飲食サービス | 100 人 | 84 人 | +16 人 (11.6%) |
観光需要回復に伴い、飲食・宿泊関連の求人が大きく戻ってきており、コロナ禍で一時冷え込んだ業界がようやく息を吹き返していることが見て取れます。

職業別では“技能系”に集中。人手不足が深刻
求人の63%は技能工・製造・建設系の職種が占めており、ここでも人手不足が色濃く出ています。
職業就職者数 | 令和6年度 | 令和5年度 | 増減幅 |
---|---|---|---|
専門・技術・管理・事務 | 2,138件 | 2,105件 | +33件 (+1.6 %) |
販売従事者 | 609件 | 547件 | +62件 (+11.3 %) |
サービス職業従事者 | 1,619件 | 1,583件 | +36件 (+2.3 %) |
技能工・製造・建設系 | 7,776件 | 7,492件 | +284件(+3.8 %) |
その他 | 214件 | 192件 | +22件 (+11.5 %) |
職業求人数 | 令和6年度 | 令和5年度 | 増減幅 |
---|---|---|---|
専門・技術・管理・事務 | 630人 | 651人 | ▲22人(▲ 3.2%) |
販売従事者 | 179人 | 152人 | +27人(17.8%) |
サービス職業従事者 | 286人 | 258人 | +28人 (10.9%) |
技能工・製造・建設系 | 1,814人 | 1,812人 | +2人(0.1%) |
その他 | 41人 | 21人 | +20人(95.2%) |
一方で、販売職やサービス職も2桁成長しており、「接客系」の回復傾向も見逃せません。
中小企業が採用活動を活発化、大企業は一服感
企業規模別の求人データを見ると、従業員30~99人の企業が前年比+296人(+8.0%)と最も伸びています。反対に、大企業(1,000人以上)は▲9.2%と求人を減らしています。
従業員規模 | 令和6年度 | 令和5年度 | 増減幅 |
---|---|---|---|
29人以下 | 3,567件 | 3,471件 | +96件 (+2.8 %) |
30–99人 | 3,985件 | 3,689件 | +296件 (+8.0 %) |
100–299人 | 2,387件 | 2,353件 | +34件(+1.4 %) |
300–499人 | 943件 | 817件 | +126件(+15.4 %) |
500–999人 | 413件 | 421件 | ▲8件(▲1.9 %) |
1,000人以上 | 1,061件 | 1,168件 | ▲107件 (▲9.2 %) |
従業員規模 | 令和6年度 | 令和5年度 | 増減幅 |
---|---|---|---|
29人以下 | 211人 | 190人 | +21人 (+11.1 %) |
30–99人 | 373人 | 383人 | ▲10人(▲2.6%) |
100–299人 | 641人 | 642人 | ▲1人(▲0.2%) |
300–499人 | 275人 | 278人 | ▲3人(▲1.1%) |
500–999人 | 297人 | 314人 | ▲17人(▲5.4%) |
1,000人以上 | 1153人 | 1087人 | ▲66人 (▲6.1%) |

県内就職率は2年連続で減少
岐阜県内に就職した内定者数は2,001人(前年比▲2人)とほぼ横ばいですが、全体に占める割合は67.8%(前年比▲1.4pt)と減少しています。
これにより、約3人に1人の高校生が県外へ就職していることになり、地元離れの傾向が強まりつつあります。
高校生・保護者へのメッセージ
~“大学進学=安定”はもう通用しない時代に~
かつて、「良い大学に入って、大企業に就職すれば、一生安泰」という価値観が主流でした。いわゆる“大卒神話”です。しかし今、その神話は静かに崩れつつあります。
大学進学にかかる学費は年々高騰し、奨学金という名の実質的な借金を背負う学生も少なくありません。しかも、卒業後の進路が必ずしも希望通りとは限らず、高学歴であっても不安定な非正規雇用に甘んじるケースも増えています。
一方で、現在の労働市場では製造業や建設業、サービス業などの実務現場が深刻な人手不足に直面しています。これらの分野では高卒者の採用が積極的に行われており、若くして社会に出ることで、経済的な自立やキャリアの早期形成が可能になります。
とくに最近では、「ストレスが少なく、時間に融通が利き、収入も安定している」という理由で、ホワイトカラーよりもブルーカラー職を志す若者も増えています。これは日本だけでなく、アメリカなど世界的なトレンドでもあります。
大学進学は「目的」があってこそ価値がある
もちろん、進学が無意味というわけではありません。明確な夢や専門性、学問への意欲があるなら大学はかけがえのない場所です。ただし、「とりあえず大学へ」という動機での進学は、時間とお金の浪費になりかねません。
今の時代、高校卒業後にすぐ社会に出て働き、実務経験を積みながら資格取得や通信教育でスキルアップするという選択肢も、十分に“賢い進路”のひとつです。実際、岐阜県の令和6年度就職状況では99.9%という非常に高い内定率が示されており、高卒就職者にとって今はまさに追い風が吹いています。
大切なのは、「進学」か「就職」かではなく、自分の将来像にどう近づくかです。周囲に流されるのではなく、自分自身としっかり向き合い、目的と手段を区別して選択すること。それが、これからの不確実な時代を生き抜くための第一歩となります。
迷ったときは、学校の先生やキャリアカウンセラーに相談してください。社会には、学歴だけでは測れない“価値ある働き方”がたくさん存在するということを、ぜひ知っておいてほしいと思います。
企業の皆さまへ
― 今こそ「高卒採用」の本質を見直すとき ―
令和6年度の岐阜県における高卒就職市場は、求人倍率4.19倍、内定率99.9%という、かつてない“売り手市場”となりました。これは、若年人材の獲得競争が激化していることを示しています。
とりわけ中小企業が求人の6割以上を占めている状況からも分かるように、大手企業に負けじと若手人材の囲い込みを進める動きが加速しています。しかし、それでもなお多くの企業が「なかなか人が来ない」「すぐに辞めてしまう」といった課題を抱えているのが現実です。
高卒人材は「原石」である
高卒者は社会経験こそありませんが、素直さ・柔軟さ・成長余地といった、大卒者にはない可能性を秘めています。
実際、企業で成功している高卒社員には、次のような特徴が見られます:
- 現場での実務をいち早く吸収するスピード
- 長期的に育成すれば管理職や技能伝承者にも成長
- 地元志向が強く、定着率が高い
このように高卒人材は「自社カラーに染まりやすく、将来的に中核を担う可能性のある人材」です。即戦力”ではなく“育成前提の採用としてポテンシャル重視で迎える姿勢が求められます。
採用成功のカギは「見せ方と伝え方」
高卒者にとって、企業を選ぶ際の最大の情報源は求人票と学校訪問時の印象です。しかし、多くの中小企業ではこの部分が弱く、「仕事内容が見えにくい」「職場の雰囲気が伝わらない」といった問題があります。
成功している企業は以下のような工夫をしています:
- わかりやすく、親しみやすい求人票(専門用語を避ける/写真を多用)
- 高校訪問や会社説明会での誠実な対話(社長・若手社員の登壇が効果的)
- 職場見学やインターンの受け入れ体制(実際の仕事風景を体感してもらう)
- 「将来のキャリア像」が描ける育成プランの提示(3年後のイメージ)
今や、“選ばれる企業”になるためには、待遇面だけではなく、「安心して成長できる場所」であることを示す努力が不可欠です。
若年人材の定着に向けた「社内の受け入れ体制づくり」
採用はゴールではなく、スタートです。特に高卒新入社員の多くは、初めて社会に出るため、以下のようなサポートが効果的です
- ブラザー・シスター制度の導入(若手社員が1対1でサポート)
- 定期的な面談やメンタルケアの仕組み
- 職場内コミュニケーションの活性化(朝礼・昼食・社内イベントなど)
- 技能・資格取得の支援制度
このような取り組みが、「育てる文化」を持つ企業としての信頼を高め、離職防止にも直結します。
人材不足の時代、最大の差は“育てる力”に
今後ますます進む少子高齢化の中で、若年層の人材確保は一層困難になります。だからこそ、「育てて戦力にする」という視点が企業の持続的な競争力を左右します。
高卒採用は、“コストをかけずに人を取る”ための手段ではありません。
むしろ、地域密着型の企業が若手を迎え入れ、社会人として育てることで、企業文化の継承と活性化を実現するチャンスなのです。
若者に「ここで働きたい」と思われる会社とは、「働きやすい」だけでなく、「働きがいがある」会社。
そんな職場づくりが、これからの時代の人材戦略のカギとなります。
高校生にとって今は“最高の就職チャンス”
令和6年度の岐阜県の新規高卒者就職市場は、まさに「空前の売り手市場」。企業の人手不足感が強く、どの業種・職種でもチャンスが広がっています。一方で、地元就職率の低下や産業構造の偏りといった課題も無視できません。
この流れを一時的なものにしないために、学校・企業・行政が連携し、若者が地元で輝ける仕組みづくりを進めていくことが求められています。